兵器開発におけるパラダイム・シフト(今までの常識から一気に進化、または革新が行われること)は、2つの条件によって行われる。
ひとつ、兵器運用目的の革命的な変化、進化による必要性から。
ふたつ、素材やエンジン等、基礎部分における技術革新。
竜型決戦兵器群は、侵略次元という特殊な、
「人類対人類ではない、非対称戦争」
に投じられるべく生み出された、新たな運用思想に則った兵器であり、また、異世界・ウォルナーから譲渡された「精霊エンジン(サラマンダー・エンジン)」の使用を前提として開発され、二重の意味でパラダイムシフトを実現した新兵器群である。
■精霊エンジン
ウォルナーの最大文明圏「ウェスカロット帝国」は、魔法技術と高度な政治形態を発展させた文明圏であるが、遥か過去のウォルナーには科学と魔法を融合させた「魔法科学文明」が存在し、ウェスカロット帝国は、その遺物である「精霊エンジン」を多数拾得している。
ウェスカロット帝国と技術提携を結んだ東妖軍は、この帝国の国宝とも言える精霊エンジンの譲渡を受けた。
小型、かつ低出力の「ウィスプ・エンジン」を基礎研究用に10数基。
中型、かつ高出力の「サラマンダーエンジン」を15基。
そして至宝、「ヘリオス・エンジン」を2基である。
竜型決戦兵器は、「サラマンダーエンジン」とのマッチングを目的に建造された、「竜を模した、精霊の依代としての偶像、及び兵器」である。
精霊エンジンは、単なる高出力の内燃機関ではない。
埋め込まれた機体の全体の形や、「その有り様」を安定させ保持する、「魂」とでも言うべき「概念機関」でもある。
竜型決戦兵器がオーバーテクノロジー気味に歩行、または飛行し、まるで生き物であるかのごとく駆動するのは、技術的なものだけでなく、精霊エンジンによる概念サポートが大きい。
つまり、精霊エンジンを搭載された機体は、「これは、こういう生き物である」との主張を、世界の物理法則に捩じ込むのである。
ただし、精霊エンジンは「魂」のようなものであって、心や意思を司る「霊」を兼ね備えてはいない。
竜型決戦兵器の起動には、機械でできた「肉体」と、「魂」である精霊エンジンの他に、「霊基」を必要とする。
それは即ち、神降ろしである。
■竜型決戦兵器特別基地「竜神神社」
竜型決戦兵器は原則、パイロットを必要としない自律兵器である。
サポートとして高性能のAIを搭載しているが、その「意思」となるのは、出撃の際に神社の儀式にて神主によって降ろされ、憑依する、「神の分霊」である。
「分霊」とは、一般には、本社のまつり神を他所で祀るために、その神の神霊を分ける(分離させる・またはコピーを作る)事を言う。
本社から分霊された神を祀る神社を「分祠」というが、竜型決戦兵器の起動時には、正にこの「分霊」が行われ、その拠り所となった竜型決戦兵器は、一時的に「分祠」となる。
即ち、戦闘時の竜型決戦兵器は、「移動する神社」「戦う御神体」と言えるだろう。
故に竜型決戦兵器は、一般的な東妖軍基地ではなく、その竜神を祀る神社を出撃拠点としている。
東京を守る八体の竜型決戦兵器は、八芒星を描く形で都内に配置された8つの神社に祀られており、軍事施設(?)にしては珍しく一般人の見学(参拝)に向けてひらかれている。
限定グッズの販売等も行われ、週に一度の出撃演習(動く竜神が間近で見れる!)のチケットは毎回完売となる。
正に、人々にとって身近な「聖地」と言えるだろう。
■竜型決戦兵器零号機 “ 荒御鋒”(アラミサキ)
サラマンダー・エンジンの実動実験機体として富士山麓の試験場で開発された “荒御鋒”は、全ての竜型決戦兵器の祖となる機体である。
当初、東妖軍は「精霊エンジン」の機微というものを知らなかった。
サラマンダー・エンジンを戦車、飛行機、人型兵器、様々な兵器に実装してみたが出力は安定せず、
「まるでエンジンにやる気が無いようだ」
と技術者はぼやいたが、とある異世界ファンタジーに詳しい設計者の、
「サラマンダーと言うぐらいだから、ドラゴン型の機体でないとマッチングした無いのでは?」
という思いつきが、ブレイクスルーとなった。
ドラゴンを模した “荒御鋒”への分霊憑依はスムーズに行われ、サラマンダーエンジンは高レベルで出力を安定させた。
因みに、ウォルナーにおいては、同エンジンの「依代の形状による変化」は無いそうなので、これは地球でのみの現象である。
“荒御鋒”はあくまで実働試験のための機体であったが、現場の判断により実戦に投入され、目覚ましい戦果を上げた。
この功績は、竜型決戦兵器を首都防衛の要とする「ホノイカズチプロジェクト」の採用へと至った。
■ホノイカズチ・プロジェクト
防衛都市・東京を、戦略的かつ呪術的に防衛するため、八芒星を描くように建立された「竜型決戦兵器をまつる神社」と、八柱の竜型決戦兵器である「竜神」の建造計画。これをホノイカズチ・プロジェクトと呼ぶ。
各竜神にはそれぞれ別の開発コンセプトと機能が与えられており、日本神話において伊邪那美命の体に生じた、八柱の雷神の名を与えられている。
■竜型決戦兵器1号機 “火雷”(ホノイカズチ)
日本神話における「火雷」は、雷の起こす炎を表すと言われる。
竜型決戦兵器、「ホノイカズチ」は、「10メートル以上の中型侵略次元兵器群に対し、格闘戦および砲撃戦を持って対処する」事をコンセプトとした、「ホノカズチプロジェクト」実戦機体一号機である。
今後、他の竜神の開発にあたり、可能な限りの実戦データを収集するため、「安定性が高く、堅実で剛健」で在ることを重視して開発された。
“荒御鋒”の活躍によりホノイカズチ・プロジェクトには潤沢な予算が計上されており、その1号機である「ホノイカズチ」は、正にスーパー・ロボットといえる高いスペックが与えられている。
1号機でありながら、今なお最強の機体との呼び声が高いのは、その万能性と戦果の多さ、そして兵装の拡張性にある。
ホノイカズチには他の竜神にはない、実験兵器のマウントラッチが多数仕掛けられており、様々な新兵器を装備可能となっている。
この中から、特に戦果の高かったものがバージョンアップされ、他の兵器の正式兵装となる。
特に目覚ましい戦果を上げた兵装は、重武装飛翔翼 「アマノハバオリ」であろう。
「邪神襲来事件」では、「アマノハバオリ」を装着したホノカズチが空中からの奇襲で異界神ハスターを追い込み、最終的に中破しながらもハスターを代々木公園に誘導。
ディスティニーソードを利用しての圧殺、撃破に成功した。
■竜型決戦兵器 2号機 ”鳴雷”(ナルイカズチ)
日本神話における鳴雷は、鳴り響く雷鳴の轟音を表すとされる。
ホノイカズチの兄弟機であり、
「単騎にて戦線を支える一騎当千の機体」
をめざして開発された”鳴雷”は、小型敵兵器をまとめて撃破する必要性から、電撃能力を主兵装とした「広域範囲攻撃機体」へと特化した。
ホノイカズチと違い、外部武装の拡張性を失わせる代わりに、固定武装の充実化と攻撃力を高めている。
機体を中心に、半径200メートルに及ぶ「電界障壁」にて敵軍団を殲滅。
射程距離3キロメートルの「降雷破」は、対空能力も有している。
ベースは「ホノイカズチ」と同様の機体構成であるが、より運動性が高められており、対集団戦にも対応した機体と言えるだろう。
反面、電撃という範囲兵器を使う都合上、他の機体との作戦行動には適していない。
出撃拠点となる「ナルイカズチ神社」は、お台場近辺に存在しており、休日には多くの観光客で賑わう。
■竜型決戦兵器 3号機 “黒雷”(クロイカズチ)
日本神話における黒雷は、雷が起こる時に天地が暗くなる事象を表すとされる。
神田近辺の「クロイカズチ神社」に祀られる竜神。
格闘戦に特化した竜神であり、20m級以上の大型の敵に対し一対一で戦闘を挑み、決定打となる一撃を与えるべく開発された。
同様のコンセプトとなる「ガシャドクロ」のライバルと言えるだろう。
他の竜神と同じく喋ることはないが、咆哮(叫び声)が大きく、活動的な竜神であることで知られており、イメージ的には熱血漢、または仁王様と受け止められており、キャラクターが立っているためか、都民からの人気が非情に高い。
手に持つ破魔の剣、「降魔金剛剣」には特別な術式が込められており、最新科学技術とウォルナー由来の魔法、そして怪異たちの妖力と神道の神通力のコラボレーションによる超兵器と化している。
■竜型決戦兵器4号機 “土雷”(ツチイカズチ)
日本神話における土雷は、雷が蛇のごとく、地上を走る姿を表すという。
蛇体。あるいは、日本の龍のような姿を持つ土雷は、ビルの谷間を身を潜めて移動する遊撃手であり、時には、長大な体躯を生かして、そのまま兵士達の前線バリケード、あるいは簡易基地として活躍する、「移動架橋兵器」(自らを橋としてどんな地形をも超える、戦車を超える踏破性を備えた陸戦兵器)である。
約90ブロックに分かれた体は、どこで途切れてもすぐに再接続が可能。ブロックごとに兵装も細かく分かれており、戦線の状況に応じて活用するブロックを切り替えていく。正に「移動するトーチカ」であり、若雷とは別の意味で、一般兵士達にとって頼れる存在である。
頭部ブロックには高出力のレーザー照射装置を持ち、背部には大型のレールキャノンを装備。ビルの隙間からの狙撃戦術にも優れる。
大型の敵に対しては、足元から接近し敵に巻き付き、放電攻撃を行う事で戦闘力を奪い、他の竜型決戦兵器やロボット兵器によりとどめを刺す、サポート役に回る事も多い。
次回、後編では、竜型決戦兵器5号機から8号機まで全機体を解説いたします。