ウォルナー派遣部隊(通称山田さん部隊)の道筋・前編

技術提携を結んだウォルナーと東妖軍は、双方の技術を惜しみなく伝え合った。

が、地球からウォルナーに送った兵器の殆どは、原因不明の作動不良を起こし、物の役に立たなくなる。
火薬は発火せず、コンピューターは起動しない……ウォルナーの物理法則を支配する「世界の掟」の前に、近代兵器の殆どはガラクタと化した。

しかしそれも「絶対」ではなく、一部の人間が使用すると部分的には作動する。何が使えて何がダメなのか。法則がつかめない。

この状況を解するべく、東妖軍・ウォルナー派遣部隊が編成された。

その任務は、「ウォルナー現地における、地球産兵器の実働実験」である。

魔法適正において最もバラつきがあると目される、機甲歩兵“迅雷”のいち小隊、
通称「山田部隊」に白羽の矢が立った。

山田寛(ひろし)。
東妖軍機甲歩兵連隊2等陸尉。平時における任務では機甲兵連隊員30名を従える小隊長だが、ウォルナーへの派遣部隊隊長として抜擢された。

38歳。一児のパパ。元は大手IT企業のサラリーマンだったが、東妖軍のロボット兵器のカッコよさに居ても立っても居られなくなり……否、子供のために未来を守ろうと脱サラして東妖軍に入隊。士官学校を経て尉官となった。趣味はライトノベルと機械いじり。ロボットマニア。

責任感が強く、実直。学者肌な外見だが体は十全に鍛え上げられており、知性とフィジカルのバランスが取れた軍人。どんな逆境に陥っても最後まで任務を遂行する「諦めの悪さ」により、部下からの信頼も厚い。

山田部隊の任務行程は、以下の通り。
次元間ゲートを使用して、地球からウォルナー辺境遺跡(ゲート出口)へ移動。

現地案内人である宮廷魔術師、シオリ・ローディア氏と合流。

転移呪文でミレミアム・ウェスカロット帝国首都へと転移。

現地にて現用兵器及び新兵器の実働実験に従事。また、ウェスカロット正規軍に対し、使用可能な兵器のレクチャーを行う。
(赴任期間一ヶ月)

だが、第二の過程である首都への転移の最中、魔竜ポルヴィス・モウス・レクスによる妨害を受け、魔竜の支配する南方へと強制転移されられてしまう。

シオリ・ローデイア。ウォルナー最大の帝国「ミレミアム・ウェスカロット帝国」の宮廷魔術師。一級魔術師として最若年の25歳で、地球文化について豊富な知識を持つため、東妖軍派遣部隊の案内役として帝国から派遣された。日本語も問題なく話せる。
実はそれも当然で、彼女の前世は日本人。30歳の時、コミケ帰りにトラックに轢かれ、解りやすく異世界(ウォルナー)に転生した彼女は、推しコンテンツの続きを追うために必死になって宮廷魔術師の地位を目指し、無事、地球特使の地位を獲得した。以来、趣味と実務を兼ねてコミケ参りを続けている。

性格は明るく楽天的。思慮深い一面もあるが、基本的にはアドリブで解決するタイプ。よって魔術師としても多様なスキルを持つ万能型。精神年齢的には50歳なので年相応に落ち着いた女性。
未婚。男女の恋愛よりは男性同士の関係性に興味がある。

山田「派手な歓迎ですなシオリ女史!」
シオリ「ウォルナー流と言えなくもないけど、予定通り転移してれば、軍楽隊が歓迎する予定だったんだけどね。」
山田「と言う事は、ここは帝国領じゃない……?!」

調査の結果、現在地はウェスカロット辺境から200キロ以上離れた魔竜支配区の中心であることが判明。

突破するためには、「獣人族の支配地域」「殺戮者の森」「時喰らいの地(ランド・オブ・マッドネス)」、そして魔竜の本拠地である山岳地帯を超えなければならない。

ここから山田部隊とシオリ・ローディアの脱出行が始まる。

東妖軍の近代兵器は「世界のルール」と呼ばれる現象により、ほぼ全て動かなくなった。だが、魔力に恵まれた隊員にとってはその限りではなかった。
「要するに魔力って言うのは、世界に対して、『自分ルール』を押し付ける力なのよね。」

東妖軍の兵器は殆どが作動不良を起こすも、その者が体の一部のように意識できる兵器のみは例外で、まるで使用者の期待に応えるかのように作動した。

要するに、「世界に対して我がままを押し付ける力があるかどうか」で、兵器は作動するらしい。

シオリによると、特に魔力の素養のある者に、その傾向が強いとの分析。

そして隊長である山田には、一切の近代兵器が使えなかった。

シオリ「山田さんが魔法を使える可能性はゼロね。」
鼻白む山田に、シオリは言葉を続けた。
シオリ「貴方の体内魔力はゼロ。つまり貴方は魔法が使えないし、逆に貴方の肉体と精神に作用するほとんどの魔法が効かない。ディスプレイサーと呼ばれる特異体質よ。」

新兵器「超踏破運送機 ダニー」はウォルナーにおいても、完全に作動した。

当機はウォルナーより提供された精霊機関「ウィスプ・エンジン」を参考に、東妖軍で制作された初の魔力エンジンによって起動する実験兵器のひとつで、おそらくは「出自がウォルナーの道具」として、世界に認識された為、起動に成功したのではないかと推測される。

山田「火竜って当然のように燃えてるが、死なないのか?」
シオリ「生物より精霊に近いのよ。肉体も純粋な物質じゃなくて魔力による合成物なの。」
山田「……食えば私にも、少しは魔力が宿るかな?」

山田はあきらめが悪かった。

シオリ「魔竜の目的は、私たちを死ぬまでいたぶって、地球人の戦闘力を測る事ね……。」
脱出不能、交渉不能。隊長として山田は決断を下した。
山田「自らの身で知ってもらおうじゃないか。スーパー地球人の力を。」

端的に言うと山田隊長は、キレた。

「借りを作りたい相手じゃないけど。」
シオリは気乗りしない表情で言った。
「この辺りには魔王メリルのダンジョンがあったはず。助けを求めましょう。」

引きこもり魔王、メリル・シュトラウスについてはこちらのコラムで。

魔王メリルの引きこもりダンジョン生活

メリル「喜んで協力させてもらうよ。もちろん軍事機密だとか、野暮な事は言わないね?」
もう何度軍規に背いた事か。山田は出世をあきらめた。

「要するに地球とウォルナーでは、物理法則のOSが違うんだよ。」
外見に似合わず、メリルの口ぶりは完全にオタクのそれだった。
「例の実験兵器とやらも動かせるようになる。条件付きだけどね。」

個人的に地球とのつながりを持つメリルの手助けで、一部の兵装と「実験兵器」を使えるようになった山田部隊。
また、メリルの魔法演算による未来予測と、とある冒険者パーティの「縁(えにし)の魔法加護」により、突入時には魔竜ポルヴィス・モウス・レクスが不在である可能性が高いとの助言を受ける。

彼らは一か八かの賭けに出た。

荒塵王ポルヴィス・モウス・レクスの軍団はウォルナー派遣部隊から地球人の戦闘力について、十分な知識を得た。もはや彼らに用は無い。

「そのまま地に伏していれば、死して魂も救われように。あの地球人共はポルヴィス様の供物となる道を選んだようですね」

山田部隊は魔竜の神殿を突破できるのか。今回はここまでです!

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